朝の5時。


まだ眠りの中にある街は、薄暗くて、冷たい

薄いグレーの空を見上げて、大きく息を吐く。


…行ってみよう…かな…。


翼のもとへ、―――――。


シャツにジーンズという簡単な服装に、目についたカーディガンを掴んで。


私は、財布と携帯と家の鍵だけをポケットに入れて、家を出た。



大きな、重たいドアを開けると、ひんやりとした空気が頬に触れる。


静かな、静かな空気の中、氷が削られる音だけが響く。



刹那、――――――。



爆音で鳴り響くタンゴ。


――――― !


El Tango De Roxanneだ!


急いで階段を駆け上がると、真っ白な氷の上で情熱的なステップを踏む、翼がいた。


熱く、力強く。


燃えるようなオーラを纏って。



リンクサイドの冷たい空気に、私は思わず身震いした。

翼の周りだけが、違う世界のようだ。

音楽が終わると、また元の静寂さが戻ってくる。


ここはいつきても、私をリセットしてくれる何かがある。



シャ―――――――ッ !!



氷の削れる音がして、彼は近くまでやってきた。

少し息の上がった彼の吐く息は、白くて。

その光景が不思議で、すごく惹かれるものがある。


「来たの?」


「おはよ。」


さっきまでの、あの燃えるようなオーラはどこにいっちゃうんだろう…。

朝から爽やかな笑顔を向ける彼は、表情が豊かでつい見とれてしまう。