千尋さんは…、何か感じたかな。

そっと視線の先を窺うと、玲の姿をぼんやりと追っていて。


「懐かしい。」


私はさっきまで玲が座っていた席に座りながら、千尋さんの前に顔を合わせた。


その声に、千尋さんはハッとして、

「玲さんと友達だったのね。
…知らなかったわ。」

と、少し驚いたような顔をしていた。


「はい。ゼミで何度か。」


そこで慌てて、

「仲、良かったんです。」

と付け加える。


「そうだったの。」


にっこりと笑う、千尋さんの心の中まではわからない。


でも、――――。

この場を取り繕うのに、焦っちゃ駄目だ。


「玲はいつも一生懸命な子で、凄く優秀だったんです。

ちっちゃくって、可愛くって、みんなから人気があって。

あー、懐かしいなぁ。」


うん、うんと、頷く千尋さんは、穏やか笑みを浮かべて。


「千尋さん、玲とお知り合いだったんですか?」


私はわかっている答えの質問を、投げかけた。


「ええ。そうなの。」


コップの水を持つ手が…、震えていた。


そう、だよね。

知ってて、当然……。

だって、航太の、元カノだもの。

だけど、ここで聞いておかなければ、私と玲の関係がばれてしまう。


友達同士で取り合った、なんて思われたら……。

今までの努力が、水の泡だ……。


まさか、千尋さんと一緒の時に会うなんて…。



これ以上、もう…。



イタタマレナイ。



ニゲダシタイ。