「お前は確かに人間だ。だが住んでいる世界が違うし、なによりお前は、オレ達の事をとても良く理解してくれている」

「え?」

「本気で怒ってくれたろう? 狂王に対して、下劣な裏切り者だと」

「あ……」

 あ、あれは……。

 あれは、間違いなく怒りはしたけれど。

 でもあの時は、自分の状況と重ね合わせていて、自分自身の事を哀れんでいた比率が、かなり大きくて。

 べつに、この世界のことを純粋に憂いていたわけじゃ……。

「人間に、この理不尽さと気持ちを理解してもらえて、とても嬉しかったんだ」

「……」

「ありがとう。雫」

 戸惑うあたしの心を知る由も無いジンに、曇りの無い目で素直に感謝を伝えられて、あたしは済まない気持ちで一杯になった。

「雫。元の世界で何があった?」

「え?」

「お前の言動や態度を見ていれば分かる。何か、とてつもなく辛い出来事が起こったんだろう?」

「え、えぇ、まぁ……」

「やはりそうか。だからお前は、異世界の扉を開けてしまったのか。良かったら話してくれ。どれほど辛い事があったんだ?」

「う、あぁ……えっと……」

 あたしは視線をあちこちに泳がせながら、言葉に詰まってしまう。

 そうなの。とてもとても辛い出来事だったのよ。

 これまでの人生全てを打ち砕かれるほどの辛い出来事だったわ。

 でも、なんて言うの?

『実は男に振られたんです』って?