悲しくて切ない。
 苦しくて、しのびない。

 あたしの胸を締め付ける強い感情は、この船の記憶?

 ううん、これは……この船の感情だ。

 海原を駆けるという、己の存在意義そのものを、無碍に奪われてしまった船。

 傍らで、共に悲しむ友がいてくれるならば、まだ耐えられようものを。

 それすらも奪われ、失意の中で延々と見る夢は、かつて確かに存在していた輝き。

 幸せな幸せな、温かい記憶。

 今こうして、再び黄金の海を駆けれども、

 偉大なる神を、この背に乗せども、

 一陣の風は傍らに吹けども、

 ……我が友、アグア。お前はいない。

 お前だけが足りない。

 我に触れる、その手に再び会いたい。

 もう一度、共に金の海を駆けたい。

 どこに……

 どこにいるというのか……。

 会いたい。会いたい。かけがえのない友。

 美しいアグアよ……。


 胸に、大きな穴が開いたような喪失感。

 その穴に吸い込まれるかのように、次々と涙が零れ落ちる。

 失った宝物を探し求める心。

 代わりになるものなど、無い。そんなものなど、ありえ無いの。

 あてど無く指を伸ばし、でもその先は闇ばかりで……空を掴む虚しい悲しみ。

 キュッと唇を結んで、あたしは泣き続ける。

 辛い。切ない。

 求めても求めても、もうそこに居ない苦しみ。

 また、そんな苦しみをこんな形で味わうなんて……。

「雫よ……」

モネグロスが、涙を流し続けているあたしの隣に立つ。

「感謝します。私の目を覚まさせてくれた事に。そして……」

 土気色の顔が、優しく微笑んだ。

「共に、アグアを救うと言ってくれたことに」

 あたしは大粒の涙を零しながら、何度も何度も頷いた。