銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「狂王の手は、精霊にまで及んだんだ」

 風の精霊が、険しい表情で吐き捨てる。

「火の力や、水の力、全ての精霊の力を、自分達の思うがままに操ろうとしたんだ」

「アグア……アグア……うぅ……」

「はいはいはい、ちょっと待って待って~」

 モネグロスの両目がうるりと潤みだしたのを見て、とりあえずあたしはポケットからハンカチを取り出し、モネグロスの手に押し付けておいた。

 話の要点が済むまでは、泣くのは我慢してちょうだいよ。頼むから。

「悪いことに、オレ達精霊を束ねる長が、今度の事ですっかり萎縮してしまった」

「萎縮? 狂王を恐れているって事?」

「あぁ。なにしろ神が衰退させられたのを、目の前で見ているからな。今この世界の全ての精霊は、森の人間の国に集められているんだ」

「人間の国で、精霊達は何をしてるの?」

「奴隷のように人間に従っている。長の命令で、国から出る事は許されない」

「人間の国から出られないって、あんた居るじゃないの。今ここに」

 風の精霊が、フンッと鼻で笑った。

「オレは風の精霊だ。自由が信条さ。誰にも決して縛られるものか」

 銀色の髪がフワリと揺れて、見えない敵に挑むように銀の目が鋭く輝く。

 へえ、ちょっとカッコイイわね。少し見直したかも。

「アグアも、縛られるのを良しとしなかったんだ。モネグロスの元へ戻ろうと、何度も繰り返し脱走を企てた」

「へえ……!」

 すごい! そんな恐ろしい狂王に負けてなかったんだ!

 アグアさんって強いのね。同じ女として誇らしいわ!