銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 うーん……つまり……。
 お相撲さんが三歳児相手に本気で張り手を返したら、世間は大騒ぎになる。

 って事と同じ意味かしら。

 そりゃそうよね。世の中、何をしても良いわけじゃないわ。

 やって良い事と、悪い事の区別はつけなきゃ取り返しがつかなくなる。

 良識ある大人は、それをわきまえなきゃならないのね。

「だからこそお互い、相手を裏切るような行為をしてはいけないのよね」

「その通りだ」

「長い間愛情を捧げてくれた相手を捨てて、ほんの短い付き合いの方を選ぶなんて、しちゃいけないのよね?」

「まったくだ。国王などより、神の方がよほど重要な存在なのに」

「自分達の欲望を最優先して、これまでの全てをぶち壊しにするなんて!」

「それがどれほどの大罪かも理解できない愚か者だ!」

「許せない! 人間として最低よ!」

「お前の言う通り、狂王や人間共は最低だ!」

「下劣で卑怯者! 裏切り者の人非人! そして汚らしい淫売と浮気者ー!」

「……淫売と浮気?」

 ……あ。
 い、いけない。

 つい頭に血がのぼって、自分の状況と完全に重ね合わせてしまった。

 でも話を聞いてると、どうにも胸の傷が激しく疼いて仕方ない。とても他人事とは思えないわ。

「そ、それで、アグアさんはどう関わってくるの?」

 冷静になるために、もう一度話題を転換する。

 モネグロスの愛する精霊である彼女は今、こんな危機的状況でいったい何処にいるの?