(ジン、絶対に言えない事、心の中でだけ言わせて)

 あたしは泣き続けながら彼の頬を撫でる。

 その手に、感触は何も無かった。それがとてつもなく悲しい。

 うっすら見えるジンの顔の形を、感覚だけで指でなぞった。

(あなたが消えてしまうなら、もう世界なんてどうでもいいって一瞬考えちゃった。それほどあなたを愛してるのよ)

 聞こえた? ねぇ、ジン。

 聞こえたなら……返事してよ……。

 体中の水分が枯れてしまいそうなほど、あたしは涙を流し続ける。

 そして透き通った彼の唇に、自分の唇を重ねた。

 そのとき、ドサリと何かが倒れるような音がして、あたしは顔を上げた。

 そしてそこに見えたものに目を見張る。

 ヴァニスが、倒れている!

 しかも体から白い湯気のような、煙のようなものが濛々と出ている!

「ヴァニス!? どうしたの!?」

 血色の戻っていたヴァニスの顔色が、白い煙と共にどんどん蒼白になっていった。

 なんなの!? どうしたのよ!? あの煙の正体は何!?

「あれは、モネグロスの命の砂と私の水です」

 アグアさんの言葉に、あたしは驚愕して目を剥いた。

 命の砂と水!? それがヴァニスの体から出てしまっているの!? どうしてよ!?

「アグアさん、ヴァニスを回復してくれたんでしょう!?」

「ええ。ですがそれは一時的なものです」

「い、一時的!?」

「神の命は、人間の器には納まらない。もう、時間切れです」

 あたしは唖然として口を開いたまま、言葉も出なかった。

 そんなのってないわよ!!