番人の体には、深い刀傷が縦一直線に刻まれていた。

 あの一筋の閃光は、ヴァニスの刀身の輝きだったんだわ。

 人間の王ヴァニスの、神剣による渾身の一撃によって引導を渡された番人は、ピクリとも動かなかった。

「余は、今、悟った」

 濃い血の赤に染まったヴァニスの顔。

 漆黒の衣装が真紅の血を吸い、ギラギラと異様な色彩を放つ。

「神から賜った宝刀。神と精霊から預けられた命。そして……」

 乱れきった黒髪と、そんな凄惨な姿とはまるで対照的な、澄んだ瞳。

「そしてそれを動かすのは、人間の意志であると」

 ヴァニスは大きく息を吸う。そして満足そうに目を閉じ、ふうぅっと長く息を吐く。

 その表情は穏やかで、満ち足りていた。

 そして、ほんの僅かばかりの悲哀が混じっていた。

 その光景を眺め、ひたすら涙を流すあたしの胸に、この世界に来てからの様々な思い出が、嵐のように駆け巡る。

「ジン……終わったよ……」

 下の地面が透けて見えるほど、薄くなってしまったジン。

 あたしの涙がボタボタと、ジンの体をすり抜けて土に染み込んでいく。

 もうすぐ、終わる。ジンの時間も。

 かけがえのない大切な時間。失った大切な存在達。

 それを代償として守りきったもの。

 あたし達は守りたいと望み、その為に戦い、手に入れた。

 皆がそれぞれの役目を立派に果たした。素晴らしい偉業を成し遂げたんだ。

 そして……その結果、ジンはこれから消えていく。

 あたしは最愛の者を失うんだわ。

 世界の存続という、大きな希望と引き換えに。