銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 その時ヴァニスの全身に突き刺さった杖が、忽然と消滅した。

 栓を失ったことで、全ての傷口から僅かに残ったヴァニスの血液が零れ出る。

 あたしは両手で口元を覆いながら悲鳴を上げた。

 ああ! ヴァニスの最後の血が、最後の命が、消える!!

 番人が、皺枯れた手を頭上に掲げてくるりと振り向き、大きく杖を振りかぶる。

 ……アグアさんに向かって!!

「アグアさん――! 逃げて――!」

 裏返るあたしの絶叫。

 でもアグアさんは逃げようとせず、腕を動かし続けている。

 なにかを撫でるかのような、彼女の手の動きに連動するように、モネグロスの砂と水がヴァニスの全身に降り注いだ。

 モネグロスの命の砂。命を育み守るアグアの水。

 それが染み渡るように、ヴァニスの体に吸収されていく。


 番人がアグアさんに向けて杖を放とうとした、その瞬間。

 その番人の背後、頭上から足元まで、一本の細く鋭い光の線が走った。

 番人の体は、まるで魔法にかけられた様に完全に動きを止め、そして……

 ドサリと、吊り糸が切れた操り人形のように前のめりに倒れる。


 つ、いに……

 ついに、番人が、地に伏した!


 信じられない思いでその光景を凝視するあたしの目には、神剣を手にしたヴァニスの姿が映っていた。