銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 彷徨うあたしの視線が見つけ出したその人物は……

 アグア、さん?

 アグアさんが上体を起こし、片腕を番人に向けて伸ばしていた。

 あたしは状況が理解できずに呆けるばかり。

 ヘドロにまみれ、爛れた姿は、かつて讃えられた美貌の片鱗も無い。

 取り返しのつかない過ちを犯してしまった彼女は、二度と元の姿に戻る事はないかもしれない。

 それでも、その全身が威厳に満ちている。

「私が世界の汚染の元凶。全ての謗りを受けるべきは、この私」

 堂々とした姿勢。清涼な声。

 奥底から湧き出す、輝くような清廉な心を明確に感じる。

 あぁ、美しい。神々しいほどに。

 彼女はやはり、水の精霊アグアなんだわ。

「それでも……私はあなただけは許せない」

―― ザアァァッ!!

 再び、あの音が響く。

 アグアさんの手から鋭い水流が番人に向けて放たれた。

 ……いや、違う。あれは水だけじゃないわ。

 水と一緒に、なにかが……

 砂だ!

 あれは、あの砂は! 

「ただの人間や精霊ごときに手出しは不可能でも、世界で最も偉大な神、モネグロスの命の砂はどうですか?」

 砂漠の神モネグロスと、水の精霊アグア。

 ふたりの力の結晶が、番人の体を確実に貫くのをあたしは見た。