銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 ぼうっと瞬き光るジンの体が透けていく。透き通るように儚くなっていく。

 消えてしまう! あたしのジンが!

 命よりも大切な愛するジンが、今ここで消滅してしまう!

 あたしはもう半狂乱だった。

 ギャアギャアと金切り声を上げ、血を吐くほどに絶叫し続ける。

 正常な意識なんてとても保てない。

『こんなのは嫌だ』

 その感情だけがあたしの全てを支配し、突き動かしている。

 水! 水の力!

 あたしの体中の血液も体液も何もかも、全部一滴残らずジンに捧げる!

 血も骨も肉も心も、命も、何もかも失っても構わない!

 でもジンだけは失えない!!

 たとえこの恋が成就しなくても、あたし達が結ばれなくても、それでも……

 それでも! ジンが生きていてくれればそれでいい!!

「……ずく……」

 ジンの唇が動いた。

 もう、下の地面が透けるほど薄くなってしまったジンの体。

 恐らく、彼の自己意識も消滅しかけている。

 そのジンが……

「ずく……し、ずく……しずく……」

 あたしの両目からドオッと涙が溢れた。

 ジンは自分自身が誰であるかすらも覚束ないのに、それでもあたしの名を呼んでくれる。

 命の消える瞬間まで、彼はあたしを呼ぶ。それは……

「し、ず、く……」

 その名を持つ者を、彼が愛しているから……。

 これ以上ないほどの確かな愛の証を捧げられて、あたしは泣き喚く。

 もう、あたしの愛を伝える時間と手段の無い悲劇に。

「いやあ! いやあぁぁ! ジン――!!」

 髪を掻き毟り、時よ止まれと懇願する。

 でも、現実はどこまでも無情。

 番人は、今まさにヴァニスの命を奪おうとしていた。