銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「どうして、そんな現象が起こってしまうの?」

「言ったろう? 神は人間を深く愛し、他のどの種よりも親密な関係を保ち続けた」

「その結果、人間も神に干渉できる力を持ったのです」

「人間が神様へ干渉できるの? ……ただ神から愛されたっていう、そんな理由だけで?」

「愛される者は、自分を愛してくれる存在に対して、圧倒的な力を持つのです」

「神であれ、人間であれ、それがこの世界の仕組みさ」

「あ……」

 不意に、元婚約者の彼の顔が頭に浮かんだ。

 あたしが、心からの愛を捧げた存在が。

『あの娘とは何でもないさ。ただの仕事仲間だよ。俺を信じろ雫』

 ……あたしは、彼の言葉を信じた。

 自分の疑心を封じ込め、彼の言うがまま、何の口出しもしなかった。

 彼の望むがままにしたその結果、あたしの心は、この神殿のように崩れ去った。

「……そうね。よく分かるわ」

 急に重々しくなったあたしの口調に、モネグロスと風の精霊が、訝しそうに顔を見合わせた。

 分かるのよ。すごく。

 愛を注ぐ者は、圧倒的に弱者なんだわ。

 支配されると言っても過言ではないほどに。

 そして無抵抗に操られ、傷つけられ、泣き叫ぶのよ。

「この世界の神は、人間を愛しすぎたのね」

「お前……?」