呆然として自分の手と番人を見比べた後で、あたしは再び殴り掛かったけれど、両の拳はブンブン虚しく空を切る。

 視覚的には、拳は番人の顔にしっかりとめり込んでいるのに、何のダメージも与えていない。

 この! この! どこまでも化け物め!

 いつまでも殴るのを止めないあたしに、番人がようやく視線を向け、静かに言った。

「……愚かな。人間ふぜいが、始祖の神の眷属へ手出しができると思っているのか」

 あくまでも冷静なその口調に、あたしの頭に血がのぼる。

 悪かったわね! どうせあたしは愚かよ! どうせあたしは人間ふぜいよ!

 そんなの、あんたに言われなくたってあたしが一番よく知ってるわ!

 あたしは無力な人間で、これしかできない! だから自分にできる事をするのよ!

 それがたとえ無力でも、無意味でも、できる事があるならやってやる!

「あんたを拒絶する証として!」

 逝ってしまった仲間達の顔が脳裏に浮かび、目に涙が浮かぶ。

 唇を噛み、ムチャクチャに殴り掛かるあたしを、番人は無表情に見つめてまた言った。

「愚かな。やはり世界の破滅は摂理だ」

 そして番人はアグアさんに近づいて行く。

「だめよ―――!!」

 あたしは倒れているアグアさんに駆け寄り、その体に覆い被さった。

 睨み上げるあたしの視線と、番人の冷たい視線が強く絡み合う。

「うぐうぅぅ!!」

 ヴァニスの悲痛な声がが聞こえて、あたしはハッとした。

 見ればヴァニスの肩に、深々と杖が突き刺さっている。

 しかも杖が……いつの間にか三本に増えている!?