銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 なにも出来ないなら出来ないなりに、先にだけは進まなければならない。

 頭上にはかなり小さくなった穴が見える。あそこに向かって上がるとなると、相当な距離だろう。

 負傷したジンやヴァニスを、どうやってあそこまで運ぼうか。

 ……なんの! 負けるもんですか!

 いざとなったら、あたしが肩に担いででも上ってみせるわ!

 一番いけないのは、ここで立ち止まる事よ! とにかく前へ! 前へ!

「ジン! ヴァニス! 聞こえる!? 今から上へ上るわよ!」

 あたしは大声で呼びかけた。

「動くのが無理なら、あたしが引っ張るわ! 今からあたしがそっちへ……」

「しずくさん、わたしがみんなを運びます」

 ノームは、萎れて黒ずんだ目を細めて笑いながらそう言った。

 運ぶって、あなたもそんなに弱ってるのに?

「そんなの無理よ」

「いいえ、なんとかなりますから」

「な、なんとかって」

 あたし達を木の根で支え、石の槍を覆い、地上でアグアさんを守りながら、さらに大人3人分をあんな高さまで運ぶって言うの?

「さすがに無理だわ!」

「むりでもやります。これはわたしのやるべき事ですから」

「でも!」

「これはわたしの使命です」

 ……使命。

 イフリートの精悍な顔が脳裏に浮かぶ。

 ノームは微笑みながら話し続けた。

「イフリートが守りたいと思ったものを、わたしは守りぬきます。この手で」

「ノーム……」

「それがわたしの使命であり、誇りなんです」