銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「!!」

 ふたり共、悲鳴は出なかった。

 自分の身に何が起きたのか、瞬時には理解できなかったのかもしれない。

 悲鳴の代わりに、ヴァニスの脇腹からはたくさんの鮮血が。

 そしてジンの肩口からは、銀色の気体のようなものが一気に放出された。

「ジン――!! ヴァニス――!!」

 ふたりの代わりにあたしが絶叫した。

 ガクン!と、全員の身体のバランスが崩れるのを感じる。

 そしてあたし達は真っ逆さまに落下した。

 奈落に向かって落ちながら、あたしは懸命にふたりに向かって手を差し伸べる。

 ……でも届かない!

 死ぬほど焦りながら、頭の片隅だけは奇妙なほど冷静だった。

 自分でも信じられないほどのスピードで、様々な状況を計算する。

 このままでは全員死ぬ! 助かる方法はないの!?

 どこか掴まる所はない!? なんとかふたりに手は届かない!?

 なにか、あたしの水の力は役に立たない!?

 どうにか助かる方法はない!?

 はじき出された答えは、ゼロ。助かる方法はなにも無い。

 ……それでも!

 それでも絶対に諦めるわけにはいかない!

 なにか! どこか! なんとか! どうにか!

 どうにかしてこの状況を切り抜けなければ!

 あたしは片腕を必死に上へと伸ばしながら、ひたすら上だけを睨むように見続けた。

 そのあたしの目に、チラリと、何かが光って見える。

 ……あれは? 

 小さな、あれは……

「しずくさあぁぁぁーーん!!」

 小さな点にしか見えなかった何かが、あたしの名を叫びながら落ちて……

 いや、物凄い形相とスピードで、ぶっ飛んできた!

「ノームっ!?」