銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

―― フワリッ……

 気が狂いそうな恐怖感と共に落下するあたしの体を、突然何かが支えた。

 体全体が、下からの猛烈な風圧でフワフワ押し上げられている。

 見ればヴァニスの体もフワフワと宙に浮いていた。

「雫! 大丈夫か!?」

 ジンが両腕を大きく広げ、風をコントロールしている。

 風の力で落下を防いでくれたのね!

「待ってろ! 今すぐ上にあげてやる!」

 下から舞い上がってくる風が、あたし達の身体をどんどん上へと押し上げていく。

 見えない透明の布団に持ち上げられているみたいな感覚。

 ふわあぁ……と柔らかく上昇していって……

 不意にガクンッ!と落下した!

「きゃあぁ!?」

 直後に落下は止まったけれど、ドッと冷や汗をかいた。

 ジンが身体を折り曲げて、苦悶の表情をしている。

 火災旋風で力をほとんど消耗したうえ、さっきの怪我も治っていない。

 自分と大人の人間ふたりを上まで持ち上げる事なんて、とても無理なんだろう。

「う……ぐ……!」

 歯軋りが聞こえそうなほど歯を食いしばり、ジンは必死に力を使っている。

 どうしよう! このままじゃいずれ力尽きてしまう!

 奈落の底は真っ暗で、今にもあたし達を飲み込もうとしている。

 あたし達を支えるのは、いつ止んでしまうとも知れぬ目に見えない風だけ。

 途切れがちに聞こえる風の音が、不吉なカウントダウンを予想させた。

―― ドゴォッ!!

 ただでさえ緊迫した状況下で、突然、穴の側面から何かが飛び出してきた。

 先の鋭利に尖った、巨大な槍のような石の柱が無数に襲いかかってくる。

 それらが全部、ヴァニスに狙い定めていた。