銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 今度は何が出てくるってのよ!? 風、火と来て、次は……

―― フッ……

 突然、足元から奇妙な感覚を感じた。

 何か、ものすごく頼りない感覚が、足元から頭の方へ向かって内臓に伝わっていく。

 これは何?

 と思うと同時に、あたしの両目が奇妙な光景を捉えた。

 あたしの目の高さと同じ高さに、地面が見える。

 え? 目と同じ高さに地面?

 そんなバカな。普通地面ってのは上から見下ろすもので……。

「……きゃあああ!?」

 ようやく事態を理解して、あたしは悲鳴を上げた。

 落ちてる! あたし達、落下してる!!

 急速に落下しながら慌てて頭上を見上げると、あたし達が立っていた場所の地面が、まんま消失していた。

 ポッカリと大きな穴が、丸く口をあけたように開いている。

 不気味な暗い雲に覆われた空が、そこだけ切り抜かれたように覗いていた。

 その穴が、空が、驚くほど急速に遠ざかる。

 足元は真っ暗で、日の光も完全に届かぬほどの深い深い奈落の底が、あたし達を待ち構えている。

 そこへ向かってまっしぐら、髪が根元から逆立つほどの勢いで、あたし達は落ちていった。

「いやあ! 落ちてる! 落ちてる!」

 あたしは無我夢中で、両手両足を動かして空を掻く。

 でもどれほど死に物狂いで空気を掴もうと、虚しく身体は落ちていくばかり。

 全身を襲う落下の恐怖。底の知れぬ奈落に吸い込まれる恐怖。

 その結果訪れるはずの、最悪の死への恐怖。

 あたしの脳裏に、最後に見たマティルダちゃんの姿がよぎる。

 頭から爪先まで恐怖に支配されながら、あたしは落下し続けた。