銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「狂った王……。狂った……?」

 黙って話を聞いていたあたしは、思わずその言葉を繰り返した。

 沈痛な表情のモネグロスはボンヤリと視線を浮かせ、風の精霊は、怒りをはらんだ目で空を睨んでいる。

「ねえ、何があったの?」

「狂王は、産みの親たる神に刃を向けたのさ」

「刃?」

「我ら神達の、消滅を目論んだのです」

「神の消滅!?」

 神様の消滅って、そんな事、人間に可能なの?

 いや、そもそも何でそんな事を考えたのよ? 罰当たりな。

「神の存在が邪魔だったのさ」

 風の精霊が、忌々しそうに吐き捨てた。

 モネグロスは悲しげに俯いて、床の剥げた幾何学模様を眺めている。

「邪魔って、何でよ?」

 良い関係だったんでしょう?

 それに、今は昔ほどベッタリ親密だったわけでもないんでしょう?

 それってスープの冷めない距離ってやつよ。ベストの関係じゃないの。

 何もわざわざ、消滅なんて考えなくても……。

「王は、自らがこの世で、唯一無二の存在になる事を望んだのです」

「人間の社会は成長した。巨大に、そして複雑になり過ぎた。それを統治する王には、強大な力が必要なんだよ」

 絶対的存在感。強大な権力。

 この世の全ての人間を、ひれ伏させるほどの権力。

 王には、それだけの力があるのだと誇示しなければ、誰も従わない。

 そう、例えるなら……

 いまだに人々が存在を忘れず、畏敬の念を持ち続ける、偉大なる神。

 自分はその神すらも、超越した力の持ち主であると。

 狂王は、神の存在に目をつけた。

 人々が尊敬し、頼りにし、心の支えにする神の座に、自分がそっくりそのままつけばいい。

 そうすれば、人心も国も思いのままだ。