銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「ノームよ」

 イフリートが優しい瞳でノームを見つめ、語りかける。

 恐らく、これは最期の言葉。ノームへ捧げる、イフリートの最期の言葉になるだろう。

「他種の精霊を、ここまで愛しいと思った事は無かった」

「……」

「我が兄弟達への感情とも違う。これは初めての不思議な感覚なり」

「……」

「これがなんなのか、なぜなのか我には分からぬ。ただ言えるのは……」

 ふわりと微笑みながら、真実、愛しげな言葉が告げられた。

「お前は、我にとって特別な精霊」

 それは、万感の言葉だった。

 伝えきれない全ての心が詰まった言葉だった。

 ノームの見開かれた目から、ボタホダと音を立てて涙が落ちる。

 ノームは何かを話そうとして口を開き、そのまま、たまらず嗚咽した。

「う……うぅ……うあぁぅ!」

 どんなに懸命に言葉を話そうとしても、出てくるのは嗚咽と涙ばかり。

 ……伝えたいのだろう。

『好きだ』と、たった一言、伝えたいのだろう。

 でも、

 どうしても、どうしても、涙が溢れて。

 溢れて、溢れて、溢れて溢れて溢れて……。


 いつの日にか、結ばれたのかもしれない。

 少女が知った初めての恋。

 ノームが成長して、少女から娘になった時。

 固い蕾が緩み、ゆっくりと花開くように、ふたりの想いも確かなものに成長したのかもしれない。

 なのに……。

 もう、そんな日が来ることは……ない。