銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 我は一度、火の誇りを失いかけた。

 僅かばかり残った誇りを、お前達のお陰で今まで失わずに済んだ。

 だからもう、二度と失わぬ。


「ジン、お前は、我が唯一憧れた精霊。あの時、ただ独りで果敢に砂漠へ旅立った男」

「イフリート……」

「無謀と言われながら、お前は己の誇りを貫いた。だから今度は我の誇りを守らせてくれ。……友よ」

 ジンは、懸命にイフリートに何かを言おうとしていた。

 ぱくぱくと口だけが形を成して、それでも結局、なにひとつ言葉にはならなかった。

 そしてギュッと唇を噛んで、下を向いた。

 あたしは全身から力が抜けて、ただひたすらに胸が苦しくて辛くて、息を吐き出しながらとめどなく涙を流す。

 分かった……。分かってしまった。

 イフリートにとって、ここで逃げ隠れする事こそが『己の死』を意味するのだと。

『行くな』と彼に言う事は、『死ね』と言うのに等しいのだと。

 だから……

 ここで黙って見ている他に、道は無いのだと……

 それを分かってしまった事が、こんなにも苦しかった……。

 ノームを掴んだ手からも力が抜ける。

 もはやあたしには、押さえる気力も無かった。

 でも、ノームも動かなかった。

 だってノームにも、何もできないから。

 ただ、自分が恋する相手が死に赴くのを止めもできず、追いかけることもできず、見ている事しかできないのだから……。