銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 そうよ、戻ってきて!

 もうこれ以上失えない! モネグロスを失って、あなたまで失えない!

 だって大切な仲間なんだもの! あなたもあたし達を仲間だと思ってくれているのなら、ここに来てちょうだい!

『我が友、雫』と、あなたは言った。

 あの夜の庭で、あなたはあたしにそう言ってくれた。

「あの言葉は嘘だったとでも言うの!?」

「嘘ではない」

 イフリートはやっと振り返り、こちらを見た。

「決して嘘ではない。それ故、我は行くなり」

 はっきりと言い切るその表情は、穏やかだった。

 とても、あんな恐ろしいものに立ち向かおうとしているようには見えない。

 地団駄を踏んでいたあたしの足が思わず止まってしまうほどに、冷静そのものだった。

「我も失えぬ。失えぬものを守る為に、我は行く」

「そ、その為に、あんたが犠牲になるって言うの!? そんなの無理よ! 到底納得なんてできない!」

 言い合う間にも、炎の瀑布は火の飛沫を濛々と上げて、ジリジリと近づいて来る。

 猶予は無い! ごちゃごちゃ話してる時間はもう本当にないの!

「話だったらここでいくらでも聞くわ! だから……!」

「このままでは、我ら全員が死ぬのは明白なり」

「……!」

「我には分かる。故に、我が行く。これは我だけに与えられた使命なり」

 使、命……。

 使命って……。

「犠牲になって死ぬことが、使命だって言うの!?」

 確かにこのままじゃ、あたし達は全滅かもしれない。

 一縷の望みがあるとすれば、それはイフリートの言う通りなんだろう。