銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「イフリート! イフリート! イフリート!」

 ノームはもう半狂乱で、水のドームから飛び出そうとした。

 あたしは寸での所でノームを両手で掴み、それを押さえる。

「危ない! 出ちゃだめよノーム!」

「イフリート! イフリート!」

「多分もう外は灼熱地獄よ! イフリートだからまだ耐えられてるんだわ!」

「イフリート! 行かないでください!」

「ドームから出た瞬間、黒焦げになるわ! 出ちゃだめよ!」

「いやです! いや! イフリート!」

 あたしの声なんかまるで聞こえていないように、ノームは手の中で暴れた。

 そしてひたすらイフリートの名を呼び続ける。

 あたしもイフリートに向かって、懸命に呼びかけた。

「さっさと戻ってきてよ! ……お願いだから!」

  聞こえているはずだ。それでもイフリートの歩みは止まらずに、真っ直ぐ前へ進んでいく。

 それを見たノームが、必死の形相になって叫んだ。

「しずくさん、はなしてください!」

「なにバカなこと言ってんの!? 外に出たら死んじゃうって言ってるでしょ!?」

 死んじゃうって言ってるのに、出るって言うし!

 こっちに来いって言ってるのに、あっちに行くし!

 あぁもう本当に、こっちの世界のヤツらは人の話を全然聞かない!

 イフリート! あんたが来さえすれば問題は解決するんだから!

 だから……頼むから行かないで!