銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 もう頭の中は真っ白だった。

 これからどうなるのかとか、あたしの水の力で太刀打ちできるのか、とか。

 そんな事は完全に吹っ飛んでしまって、ただ圧倒的な信じられない現実に、あたしは支配されていた。

 ふと、視界の端にジンとイフリートが見えて、水のドームの中から叫ぶ。

「ジン! イフリート! こっちへ!」

 そのままそこにいてはだめよ! せめて、この水のドームの中に!

 どれだけ耐え切れるか自信はないけど、それでもそこにいるよりマシだわ!

「早く! ジン!」

「シフリート! いそいでください!」

 ノームも必死に叫んでいる。

 あたし達の金切り声も、炎の瀑布の轟音によって掻き消されそうだ。

 それでもどうやら声は届いたらしく、イフリートがこっちを向いて大きく頷いた。

 良かった! さあ早……

―― バンッ!

 軽い破裂音が聞こえたのと同時に、ジンの体が宙に飛ぶ。

 何かに吹き飛ばされたらしいジンの体が、弧を描くようにこっちへ向かってきた。

「ジン!? どうしたの!?」

 ジンの体が水のドームを突き破り、あたし達のすぐ側に落下した。

 ドームはすぐさま元通りに修復されたけれど、ジンは顔を顰めて呻いている。

「ジン大丈夫!? なにがあったの!?」

「……イフリート!?」

 ノームのただならぬ声に振り向いたあたしは、水の膜越しに、見た。

 あの場所から一歩も動かず、じっとこちらを見つめているイフリートの姿を。