銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「もういい加減にしてよ!!」

 いくら何でも、みっともなさ過ぎない!?

 衰弱してるとはいえ、あんた仮にも神様でしょ!?

 いい!? 泣きたいのはこっちの方なのよ!

 婚約破棄したうえ、異世界トリップして、水の精霊の力を継承しちゃったのよ!?

 神にも縋りたい心境だってのに、その神様自身が、転ぶわ泣くわ咳き込むわ!

 そんな醜態晒している暇があるなら、ちょっとは神様らしく、迷った人間を救ったらどうなの!?

「だいたいさっきから何!? アグアアグアって誰なのよ!?」

「アグアは水の精霊。モネグロスの魂の片割れだ」

 こめかみに青筋立てて怒鳴るあたしに、風の精霊が静かに答えた。

 ……魂の片割れ?

「本来、精霊に個別の名は無い。モネグロスが与えたんだ。アグアへの永遠の愛の証として」

「永遠の愛?」

「ふたりは心の底から深く愛し合っていたのさ」

「……」

「砂漠にとって、水がどれほど大切か分かるか?」

「え?」

「分かるか?」

 あたしは大きく頷いた。

 水。砂漠において絶対に必要不可欠なもの。

 それが無ければ生きてはいけない。

 決して、生きては……。

「モネグロスとアグアは、お互いが正にそんな存在だった。そしてこの砂漠の神殿は、かつて、それは美しい場所だったんだ」