銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 泣き続けるあたしとは対照的に、アグアさんは笑い続けていた。

 低く低く、恨みの色濃い声で笑い続ける。

 あぁ……彼女は喜んでいる。

 自分の愛を裏切った相手に復讐を果たし、愉悦の境地に浸っている。

 あたしにはその気持ちが手に取るように分かった。

 ……違うのに。それは間違っているのに!

 自分の命すら顧みないほどに、彼はあなたを愛していたのに!

 その愛には一片の曇りも無かったのに!

 彼女は……信じることができなかった!

 人の想いは強ければ強いほど、固ければ固いほど、一度ヒビが入ればそれは根深い。

 本人の手にも及ばぬほどの深遠に傷は至り、修復不能なほど汚染されてしまう。

 そう。自分でもどうにもできないほどに……。

 それを知っているあたしは、ノドを振り絞るように泣きながら、思う。

 もう、どうにもできなかったんだ。アグアさん自身にも。

 本気で深く愛していたからこそ、彼女は堕ちた。道を外してしまった。

 あぁ……

『どうしてあの時』と、どれほど後悔しても、もう遅い。

 彼女は自分自身で手を下してしまった。もはや後戻りも、言い訳もできない。


 アグアは、モネグロスを、殺した。


 騙されていたんだとか、しかたなかったとか。

 そんな事はもう、この現実の前では。

 無情極まるこの現実の前ではもう、なんの慰めにもならない。

 なりようが、ない……。