銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「汚らわしい裏切り者よ。いつまでも私がお前への愛に縋ると思うか」

「……」

 モネグロスは、小首を傾げた。

 意味が分からない、と言いたげに。

 不思議そのものの表情に、さっき流した歓喜の涙が張り付いている。

「お前への愛など、とうに失せた」

 その言葉に、モネグロスの不可思議な表情が凍りついた。

 喜びは跡形も無く消え去り、変わりに驚愕が覆っていく。

 自分にとって今、世界で最もあり得ない事が起きている。

 そんな表情だった。

 あたしの心臓は、もはや早鐘のようだった。

 恐ろしく嫌な予感に全身が凍り付き、手に汗がじっとり滲んで、足は一歩も動かない。

 そんな……そんな……。

 まさか、だめよ。そんな……。

 アグアさん、あなたまさか!

 恐怖に凍るあたしの目前で、アグアさんはモネグロスに顔を近づけた。

 爛れた顔が、透けた顔に重ならんばかりに近づいて、飛び出た眼球がモネグロスの澄んだ瞳と重なった。

 そして……。

「さっさと死ね。憎き砂漠の神め」

「……!」

 モネグロスが……壊れた。

 彼の中で、彼にとっての全てが消失した。

 たったひとつの拠り所。

 彼をこの世界に繋ぎ止める、唯一の細い糸。

『永遠の魂の片割れ、アグア』

 だたそれだけがあれば、彼は彼として存在できるのに。

 他にはもう、何もないのに。

 彼は……彼は……

 もう……

―― ザンッ!!

 モネグロスは、完全に消滅した。

 最後の最後に、心から愛する者の非道な言葉を胸に抱いて。

 後には、彼の名残のように、黄金の砂が悲しく残っていた……。