銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 あんまりにも目の前の神様が情けなさ過ぎて、あたしは大きな溜め息をついた。

 出来の悪い、うちの末弟みたいだわ。仕方ないわね。

 咳き込みながらしゃくり上げる神様の背中を摩りながら、あたしは優しく声をかけた。

「ねえ神様、とりあえず向こうのイスに座って休みましょう?」

「う……ゲホッ。うっう……」

「ね、そうしましょう。ほら風の精霊、あんたも手伝って」

「あ、ああ」

 あたしと風の精霊は神様に肩を貸し、よっこらしょっとその体を持ち上げた。

 神様はずっと泣き続けて、支えてもらわなければ一歩も進めないから、ほとんど引きずるようにしてイスまで運んだ。

 お、重いわねまったくもう!
 少しは自分の力で歩いてよ!
 あたしは非力な人間の女性なんですからね!

 イスに座って息を整え、神様はなんとか落ち着いてくれた。

 そして泣き腫らした目を向けて、ようやくあたしに向かってまともに話し始めた。

「世話をかけましたね、人間よ。私の名はモネグロス。砂漠の神です」

「はぁ。神様ですか」

 やっぱりホントに神様なのか。
 ひょっとしたら、何かの間違いかとも思ったんだけれど。

 こんな醜態さらした後で、自分で堂々と断言するんだから、多分本当に神様なんでしょ。

「人間よ。名は雫というのですか?」

「はい。そうです」

「雫……。滴る水の……」

 神様の目が急にぼんやり霞んで、何かを探すように遠く視線を泳がし始める。

「水……。アグア……」

 クマの浮いた両目に、またぞろ涙が盛り上がったかと思うと……。

「アグア! 愛しい君よ――!」

 と叫ぶなり、再び盛大に泣き出した。

 やーっと泣き止んだと思ったら、また振り出しか!?