銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「……グア……」

 あたしの叫びの合い間に、微かに聞こえる儚い声。

「アグア……アグア……」

 それは、愛しい者の名を呼ぶモネグロスの切ない声だった。

 体の半分が透けてしまって、彼の存在はもはや風前の灯。

 意識もほとんど無いのだろう。声も、目も、体も、なにもかも、儚い夢幻のように成り果てて、それでもなお彼は呼び続ける。

 愛しい者の名を、心を込めて繰り返し。

「アグア……」

 ひと声呼ぶ毎に、体が透ける。

「ア、グア……」

 また一層、体が透けていく。

 透けた瞳がキラリと輝き、大きな涙が頬を伝って、ホロリホロリと滑り落ちていく。

「アグア、愛しい、アグア……」

 こんなにもはかないながら、その声は限りなく優しく、どこまでも温かい。

 彼にとって、アグアさんへの愛が全て。

 もはや彼の存在を支えているのは、アグアさんへの愛だけ。

 それがまるで細い一本の糸のように、ギリギリで繋ぎ止めている。

 こんな愛を、あたしは知らない。

 これほど深く純粋な愛情をあたしは知らない。

 それなのに、この美しい心も愛も、いま無残に世界から消滅させられようとしている。

 これが、こんな最期を迎えることが、真実の愛を知った者への仕打ちだと言うの?

 ……いいえ! このまま逝かせはしない!

 なんとしてもモネグロスを助けなければ!

 彼が非業の最期を遂げるような、そんな事は認められない!

 あたしは立ち上がり駆け寄ろうとして、思わずその足を止めた。