ヴァニスの視線を追って上を見上げると、前方上空に複数の人影が浮いている。

 あ、あれは確か、あの時ジンを襲った風の精霊の仲間達!?

 精霊達はじっとヴァニスを見下ろしていた。

 ヴァニスは興奮する馬を宥めながら、その視線を正面から受け止める。

 ど、どうしよう! まさか、この混乱に乗じてヴァニスに復讐を!?

 ザッ!と風が巻き起こり、ジンの姿が突然現れた。

 次いでイフリート、ノームの姿も現れ、あたしとヴァニスを庇うように馬の前に立ちはだかる。

「よう、兄弟」

 ジンが風の精霊達に挨拶する。

 それには応えず、精霊のひとりが静かにジンに語りかけてきた。

「この事態は、いったい何事だ?」

「お前達も、もう大体は感じ取ってるんじゃないか? 長が裏切った」

「……」

「いや、元から仲間じゃなかったんだとさ。だからお前達、オレに手を貸せよ」

「手を貸す? なぜ?」

「このままじゃ世界が破滅するからだ」

 精霊達はそれに答えず、再びヴァニスへ視線を移した。

 ヴァニスは臆することなく見返しながら言う。

「精霊達よ、無礼と非礼を承知の上で懇願する。どうか手を貸してくれまいか?」

 彼が深々と頭を下げる様子を、あたしはハラハラしながら見守った。

 もしもこのまま戦闘に突入になったら、もう町は壊滅だわ。

 どうかお願い、精霊達! いろいろ思うところはあるだろうけど、どうか聞き入れて!

 ほんの少しの間沈黙していた精霊達はお互いの顔を見合わせ、頷き合い、そして揃って口を開く。

「風の兄弟よ、お前には大きな借りがある」

「これでオレ達を許してくれるか?」

「世界の破滅はオレ達も本意では無い。協力しよう。人間の王よ」