でも……乗れないのよ! 馬の背中にのぼれない!

 鞍が無いから足場が無くて、どうにもこうにも!

 焦ってイラつくあたし以上に、どうやらイラついているらしい馬が、にゅう!っと長い首わ近づけてきた。

 あ、ありがとう。頭を踏んで足場にしろって言ってるのね?

 ごめんなさい、それじゃ失礼して……

 と思った途端に、あたしの体にろくろ首がグルリと巻き付いた。

 ……え!? と思う間もなく、そのままグイッと体が持ち上げられて宙に浮く。

 ろくろ首に巻かれてぶら下がりながら、あたしは悲鳴を上げた。

「ちょっと何するのよ!? 待っ……!」

『ンメェルルル゛―――ッ!!」

 威勢よく鳴き声を響かせるや、双頭の馬は容赦なく走り出した。

 ぎゃああ!? 待ったなし!? 嫌ぁ!

 目に映る景色が、ぐわんぐわん上下して目が回りそう!

「雫! しかたない! しばしの間辛抱するのだ!」

 パニック状態のあたしにヴァニスが叫ぶ。

 辛抱しろって言われても、こんな乗馬なんて聞いた事も無いわ!

 そもそも乗ってもいないじゃないの! 巻かれてぶら下がってるだけ!

 ジンもイフリートもすでに姿が消えていた。どうやらさっさと実体化を解いてしまったらしい。

 この薄情者! あんたら覚えてなさいよ!

 心の中で恨みながら、歯を食いしばって懸命に振動に耐える。

 つ、辛いけど、これで早くモネグロスの所へ行けるわ!

 この際よ! 遠慮なく思いっきり突っ走って! モネグロスの元へ!!