兵士集団の後方の列が乱れたかと思うと、次々と兵士の体がポーンポーンと宙に飛ぶ。

 入り乱れる靴音に紛れて聞こえるあれは、ヒヅメの音? あの、響くいななきは……。

『ンメェルルル゛―――ッ!』

 『メエェ』と『ブルル』を足して2で割ったような、実に絶妙ないななきが鳴り響く。

 なんと、双頭の馬が一頭、兵士達を跳ね飛ばしながらこちらに真っ直ぐ突進して来た。

 あれよという間に馬はヴァニスの元へ駆け寄る。

「よく来てくれた! でかしたぞ!」

 ヴァニスに撫でられて機嫌良さそうに、馬はふたつの長いろくろ首を振った。

 双頭の馬は、とても賢くて感性が鋭いって聞いたわ。

 その感性で、世界に充満した汚染を嗅ぎ分け、ヴァニスの危機を敏感に感じ取ったのかもしれないわ。

 ほ、ほんとに賢かったのね、この馬。絶対ウソだと思ったのに。

 ヴァニスは、鞍も付いていない裸馬によじ登った。そしてあたしに馬上から手を差し伸べる。

「雫! さあ乗れ!」

「……え゛? の、乗るの?」

 あたしは思わず尻込みした。

 い、いやだって、馬なんて乗った事ないのよ!?

 見上げる双頭の馬の体格は、かなりゴツくてデカいし、しかも鞍もついてないのに、いきなり初心者にチャレンジしろと言われても……。

「余が支えてやる! 案ずるな! いそげ雫!」

「雫! 早く乗れ!」

 ジンにも促されて、あたしは慌ててヴァニスの手を取った。

 ヴァニスが腕を強く引っ張り上げてくれる。