銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「はやくしてください!」

 押し寄せてくる兵士達を見据えながら、引き締まった表情でノームが叫んだ。

 その語気の強さに威圧されて、あたしはうろたえながら意識を整える。

 ええっと、そう、うん、あるわよね水分。

 空気の中にも含まれているわ。湿気。湿度。

 だから梅雨時の室内の洗濯物は乾きが遅くて、ほんっとにもー……

 じゃなくて! ええっと、集中!? 集中……

 ひたすらオロオロするあたしの手を、誰かがギュッと強く握った。

 ジンがあたしの手を握りしめて、力づけるように見つめてくれている。

 その銀色の目を、あたしは思わず見つめ返した。

 ……そして、思い出す。

 砂漠で初めて水の力を使った時、あなたが隣に居た。

 神の船を、ふたりの力で動かした。

 怒りの雨を降らせた時、あなたが目を覚まさせてくれた。

 城下町であなたの命を守るために、無意識に力を発動させた。

 いつもいつも、あなたがいた。いてくれた。

 不安なあたしの隣には、いつもあなたが。

 そして今も、ここにいる。

 一度は離れたはずなのに、舞い戻り、あたしを支えてくれている。


 いる。あなたが。

 ジンが……あたしの隣にいる!


―― サアァ……

 体の中で静かに流れる水が、勢いを増していくのが分かる。

 満ちる。あたしの、そして全ての中に満ちている輝く水。

 あぁ……満ち、る……!

「うああぁ!」

 気合いの籠った声と同時に、ノームがイフリートの肩から飛び降りて、両腕で地面を激しく叩き付ける。

 ズウンと、体の芯に響くような鈍い振動を足から感じた。