銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 でもヴァニスの顔はすっかり血の気の失せてしまって、いくら呼びかけても何も反応が無い。

 もう、だめ、なの?

 ……いいえ! 諦めちゃいけない! ヴァニス頑張って!

 あなたは絶対に、こんな所で死んではだめよ!

「いたぞ! ヴァニス王だ!」

 騒々しい音がして、あたし達は顔を上げた。

 城の兵士達が、集団でこちらに向かって走って来るのが見える。

 先頭にいるのは、ちょびンだわ! 黒い雨で全身汚れまくっているけど、あのちょびヒゲは見間違いようが無い!

 兵士を連れてヴァニスを探していたのね!?

「ここ! こっちよ!」

 手を振るあたし達の方へ、みんな一目散に駆けて来る。

 早く! 早くこっちに! 早……

「……え!?」

 何を思ったのか兵士達が次々と剣を抜き、叫びながらこっちに襲い掛かってくる。

 高々と剣を振り上げ、あっという間に目前まで迫ってきた。

「きゃああ! やめてえぇ!」

 あたしは無駄な抵抗と知りつつ、思わず両手で頭をガードする。

 ドンッ!という音がして、一瞬にして周囲に強い風が巻き起こった。

 恐る恐る目を開けると、兵士達が数メートル向こうで、なぎ倒されるように横たわっている。

 ジンが兵士達を風で吹き飛ばしてくれたんだわ!

「ゴポッ……! ガハ……カッ……!」

 激しく咳き込む音が聞こえた。

 ヴァニスが血を吐きながら苦しんでいる様子を見て、兵士達を警戒していたジンが慌てて治癒を再開した。