銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 ヴァニスの目からも、鼻からも、耳からも口からも、いったいどこから生まれるのかというほどの大量の黒煙が噴き出している。

 煙は果てることなく天に昇り、そして薄暗い空の色をますます暗く染めていく様を、あたしは絶望の思いで見上げた。

 やはりあれは……!

「そう!『憤怒! 欠けていた最後の条件が、今これによって満たされた!!」

 番人の高らかな笑い声が、煙の轟きに混じって響いた。

 番人は両手を大きく広げ、大仰に肩を震わせて笑い続ける。

 勝利による歓喜の笑い声は、悪魔の調べ以外のなにものでもなかった。

「もはやここに用は無い! 始祖の神降臨の場に行かねばならぬ!」

 そう叫んだが最後、番人の姿は忽然とその場から掻き消えた。

 支えを失ったかのように、ヴァニスの体がドサリと床に落ちて、同時に煙もピタリと治まった。

 あたしは何とか身を起こし、四つん這いになってヴァニスの元へ進む。

「ヴァニス! しっかりして!」

 まさか死んでしまったんじゃ!? そんなのあんまりだわ!!

 騙され、妹を殺され蹂躙されて、そのうえ更にその怒りまで利用されて死んでしまうなんて!

 そんな非道、許されていいはずない! お願いヴァニス、目を開けて!!

「おい狂王! しっかりしろ!」

「ヴァニス王! きこえていますか!?」

 ジンとノームもヴァニスの耳元で懸命に呼びかけた。

「お前! これまで散々オレ達に酷い事しておいて、勝手にさっさと死ぬつもりじゃないだろうな!?」

 叫びながらジンが必死に治癒の風を施す。