銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「ご安心なされよ。手向けに妹姫のお好きな宝石を、たくさん捧げておきましたのでな」

「……」

 ヴァニスの泣き声が、びたりと止んだ。

「いやまったく、妹姫は宝石がお好きであられた。あっぱれなまでの物欲の持ち主であられましたな」

 体を丸めるようにして泣いていたヴァニスが、ゆっくりと顔を上げる。

「だから真っ先に汚染なされた。つまり妹姫から、この世界の堕落が始まったのです」

「……き……」

 ヴァニスの口から、慟哭とは違う声が漏れた。

 その顔は、まるで悪鬼のごとくに変貌している。

「お陰様で、瞬く間に汚染が広がった。全ては妹姫の欲深さがあったればこそ、です」

「……ぎ……」

 唸り声をあげるヴァニスの全身から、薄黒い煙のような何かがユラユラと立ち昇り始めた。

 ……あれは、なに? 幻覚?

「妹姫が、この世界を破滅に導いた! お礼にその身を、たんまりと宝石に埋めておきました。さぞやあの世でお喜びでございましょう!」

「ぎい゛ざあ゛ま゛あ゛ぁぁぁ―――!!!」

 ヴァニスが人とは思えぬ声を発した。

 薄暗い煙が真っ黒に染まり、凄まじい勢いでヴァニスから噴出する。

 幻覚じゃないわ! あれは、あれはまさか!

「ヴァニス! だめ!」

 あたしの制止を聞かず、ヴァニスは夜叉のような形相で番人に飛び掛った。

 完全に理性を失ってしまっている。自慢の剣すら抜かず、獣のように両手で掴みかかろうとした。