銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「王よ、それに見覚えはございまするか?」

「……」

 両目と口をポカンと開けて、ヴァニスは赤い血に染まった髪飾りを見ていた。

 そして飛び付くように駆け寄り、ひざまずいて髪飾りを拾う。

「妹姫をお探しのようですが、会わぬ方がよろしいでしょう。あれは、とてもお見せできるような状態ではございませぬ」

 ヴァニスは髪飾りを胸に抱きかかえた。

 黒い衣装の広い背中が、小刻みに震えている。

「あれを王にお見せするのは、実に忍び無い。せめてと思い、髪飾りをお持ちいたしました」

「……」

 ヴァニスの背中越しに、小さな啜り泣きが聞こえて、やがてそれは大きな慟哭となった。

 身を震わせてむせび泣く姿に、あたしもボロボロと両目から涙を流す。

 とてもヴァニスの姿を見ていられない。とてもヴァニスの慟哭を聞いていられない。

 むごい。惨い。惨い! 惨すぎる!!

 こんな、ことさらに悲惨な最期を強調するような真似をするなんて!