破壊されて崩れた廊下の向こうから、ヴァニスが今にも倒れそうになりながらヨロヨロ歩いて来る。

「……雫か?」

「ヴァニス、大丈夫なの!?」

 あたしの叫びに答えるように、ヴァニスはその場に倒れてしまった。

「しっかりして!」

 ヴァニスの端正な顔の半分は、真っ赤な血と黒い雨で汚れていた。

 鼻を突く、生臭い嫌な臭いが体から漂っている。

 この臭いって、血の臭い! 黒い衣装で分かりにくいけど、きっと全身が血だらけなんだわ!

「城の爆発でケガをしたのね!?」

「黒い雨に気がつき、皆が騒ぎ始めた途端、城が……」

「しゃべっちゃだめよ!」

「被害は甚大だ。一刻も早く皆の救助を……」

「動いちゃだめだって!」

 起き上がろうとしたヴァニスが、悲鳴を上げて腹を押さえる。

 やっぱり大怪我してるんだわ!

「ジン! お願い手当てをしてあげて!」

 あたしは振り向いてジンに懇願した。

 ジンはさっきまでの苦悩に満ちた表情とは打って変わって、ひどく冷静な目でヴァニスを見ている。

「ねぇジン! お願いよ! 助けて!」

「……」

 ジンはヴァニスの足元にしゃがみ込み、やはり冷静な目でヴァニスに話しかける。

「狂王よ、いいザマだな」

 ヴァニスは薄っすらと目を開けて、自分を見下ろすジンを見上げた。

「あの時の、風の精霊、か……」