「お……さ……?」

 胸元を涙で濡らすノームが、不思議そうな声を発した。

 あたしも倒れた上体を起こし、目の前を見上げる。

 長い長い、腰に届くほどの白髪。

 同じく真っ白で、味も素っ気もない長い裾の衣装。

 顔中に刻まれた無数の深いシワ。萎んで痩せた枯れ木のような手。

 そこらの木から捥ぎ取ってきたような、無造作な枝のような杖。

 それは、精霊の長だった。

 白く染まった両目であたしを見下ろしながら、長がここに立っていた。

「異世界の女よ、ようやく、ここへ辿り着いたか」

「……」

「時は満ちた」

「……」

「大願成就の時が、来たり」

 意味不明の言葉が、長の口から聞こえてくる。

 ノームが救いを求めて、両腕を長に向けて必死に伸ばした。

「長! おねがいです! みんなを助けてください!」

「それは叶わぬ」

「そ、そんな!? このままではみんな死んでしまいます!」

「この犠牲は必要不可欠。わたしの大願成就の為の礎なのだ」

「……え?」

「この精霊達は、役目を果たしているに過ぎぬ。果たし終えれば消えるが定め」

「……なにを……」

 なにを、言っている?

 役目? 大願成就の為の犠牲?

「この繭は、わたしが作り、そして精霊達を閉じ込めた。故に繭から救うわけにはいかぬ」

「……!?」

 長が!?
 長がこの残虐な仕打ちをした張本人なの!?