マティルダちゃんは、床に落ちている宝石を両手で鷲掴みして、うっとりと頬ずりする。

 掴み切れない宝石が、バラバラと音を立てて零れ落ちた。


 宝石。宝石。大好きな宝石。

 これは全部マティルダのものよ。

 いつでもキラキラ輝いて、マティルダを慰めてくれる。

 輝きは変わらない。美しさも変わらない。

 決して消えない。無くならない。

 お父様や、お母様や、お兄様達のように、いなくなってしまわない。

 ヴァニスお兄様のように、マティルダのそばから離れてしまわない。

 いつだってマティルダはひとりぼっち。

 家族みんなに置いて行かれて、ひとりぼっち。

 でも宝石は違う。

 ずっとずっと永遠に変わらず輝き続ける。

 生き続ける。

 絶対に絶対に、マティルダをひとりぼっちにしない。


「こんなマティルダを……可哀想だと言ってくれたの」

 歌うような囁き声が、マティルダちゃんの唇から流れる。

「可哀想だからと……教えてくれたの」

 幸せそうな表情で、宝石に口付けする。

「あの精霊が、楽園のようなこの場所を……」

―― コツン。

 固い音が、耳に響いた。

―― コツン、コツン。

 いつの間にか静まり返った室内に、ひときわ大きく響き、近づいてくる。

―― コツン、コツン、コツン。

 そして。
 あたしの目の前で、それは立ち止まった。