銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「そ、それでは部屋に戻ります!」

 あたしはアタフタとその場を立ち去った。

 ひ~! い、威圧されて圧迫死するかと思った! この場は逃げろ! 逃げるが勝ちだわ!

 うさんくさいエロちょびンなんかまったく平気だけど、あのロッテンマイヤーには逆らえない!

 逆らったら絶対ヤバイ事になる! 女の本能がそう警告してる!

「こ、こわかったですぅ」

 胸元から顔を出したノームが、ゼイゼイしている。

「なんだったんですか? あの女のひとは?」

「あれはね、お局様というのよ」

「おつぼねさま?」

「決して逆らっちゃいけない存在なの。逆らうことは、身の破滅を意味するのよ」

「はぁ、なんとなく分かります。でも、どうしますか? これじゃ王に会えませんね」

 そうね、困ったわ。夜中にこっそり会いに行こうかな?

 あ、でもきっと、執務室の前の衛兵に見つかるわよね。

 壁をよじ登って窓から侵入するわけにもいかないし、それにそもそもあたし、執務室の正確な位置を知らないんだったわ。

「王のいる所がわからないんですか?」

「ここに来てからほとんど部屋に缶詰状態だったから、この城のことはまったく分からないのよ」

「どこか知ってる所はないんですか?」

 この城の中で良く知ってる所といえば……あぁ、マティルダちゃんの部屋なら知ってる。

 そういえば最近、あの子ちょっと様子が変わったわ。

 食事を一緒にしても、どこか心ここにあらずでボンヤリして、そうかと思うと急に妙にテンションが高くなって、はしゃぎ出したり。

 ヴァニスに会えない寂しさのせいかと思ってたけど。