銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 止められるもんなら止めてみれば? あたしを捕まえて、床に押さえ付けでもする?

 国王の『大切な御婦人』に?

 手出しできるの? ふん、できないでしょ? だったら邪魔しないでちょうだ……

「お待ち下さい。雫様」

 揚々と進むあたしの目の前に、立ちはだかる人物。

 ……うわ出た! ロッテンマイヤー!

 ひと筋のほつれも許さないほど、カッチリまとめ上げられた白髪交じりの髪。

 マナー講師も泣いて謝りそうな、完全無欠の姿勢保持。

 鉄壁を誇る無表情。感情の一切読めない目。立ってるだけで場を圧倒する、この圧倒的な存在感。

「城内には、城内のしきたりがございます」

 ものすごくゆっくりと、静かで、でもなぜか臓腑を縮み上がらせる声。

「じ、侍女長さん、あの……」

「婦女子が国政に口出しする事は、城内においてご法度にございます」

「あ、いやでも……」

「分をわきまえる事こそが、婦女子のたしなみにございます」

 抑揚のまったく無いしゃべり方が、かえって凄み満点。

 こ、怖い。
 セリフひとつで他者を服従させるオーラが漂ってる。

 百戦錬磨のツワモノのみが発するオーラだわ。

 うちの会社の勤続40年の、他県にまで名の知れ渡っているお局様をも凌駕するオーラ。

「どうぞわきまえなさいませ。……雫様」

 ズオォォ……っていう効果音が聞こえてくる。

 無表情な両目がギラリと光ったように見えたのは、たぶん気のせいじゃないと思う。

「は、はいぃ!」

 あたしはあっさり白旗を上げた。

 だってマジで怖いのよこの人! だからあたし、オバケ屋敷は苦手なんだってば!