銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 思い出したくもない記憶が甦る。

 彼に別れ話を切り出された時と同じ空気が、ここに流れている。

 空間を切り裂いてしまいたいほどの、嫌な嫌な嫌な気持ち悪い空気が。

 心臓がどくんどくんと音をたて、指一本動かしてもいないのに、まるで激しい運動でもしているように暴れている。

 暑くもないのに、手には汗がじっとりと浮かぶ。

「雫だけは、オレ達精霊の味方だと思っていた。この非道さを理解してくれる、唯一の人間だと」

「……」

「だから出会えて嬉しかった。この出会いは重要な意味があると信じた。勝手に信じ込んでしまったんだ」

「……」

「雫はオレ達の仲間で、雫もオレ達を仲間だと思ってくれていると」

 仲間よ!
 そう思っているし、そう信じている!

 心の中で強く叫んだ。

 口が……口が動いてくれなかったから。

 まるで縫い付けられたように、まったく動いてくれなかったから。

 だから代わりに、あたしは目で精一杯訴える。

 あたし達は仲間よジン!

 そしてあなただけが、あたしにとって特別な精霊!

 間違いじゃない! 勘違いじゃない! 絶対に絶対に間違いなんかじゃないわよ!

 ……今度こそ、そう信じさせてよぉ!

「お前が悪いんじゃない。誰が悪いんでもない。ただ……」

 嫌よ。

 何も言わないで。

 もう何も聞きたくない。

 もう嫌。もう二度とあんな思いをするのは嫌。

 嫌よ、嫌、嫌、嫌。