銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

『不可能』

 ヴァニスやジンが何度も繰り返した言葉。

 そのたびあたしが反発し、否定してきた言葉。

 今あたしは改めて、その言葉の重みを深く深く受け止める。

 そうだ。不可能なんだ。

 時間さえあれば、いつかは可能になるのかもしれない。

 いつか、ずっとずっと遥か遠い未来に、種族を超えて共に生きる可能性が芽生えるのかもしれない。

 でも、そんな時間はもうない。この世界には、そのための時間は残されていないんだ。

「雫、もう分かったろう? ここに居てはダメだ。砂漠に戻ろう。オレ達がお前だけは守ってやるから」

 あたしに向かって差し出されるジンの手。

「みんなでモネグロスを一時的に看取り、そして静かに再生を待とう。あの美しい砂漠で」

 人間などいなかった時間を取り戻そう。

 人間からの信仰も、人間への寵愛も、問題も災いも、何も無かった幸せな時間へ戻ろう。