銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 あの時。

 婚約破棄のショックで寝込んで、会社にも行けなかった日々。

 苦悩の中で悶え苦しむあたしに、あの娘からの謝罪の手紙が届いた。

 自分にもどうしようもできない事だったと。

 決して悪気があったわけではなくて、彼に惹かれてしまう事も、彼が自分を愛してしまった事も、抗うことの出来ない流れのようだったと。

 結果的にあたしを傷付けてしまった事を、申し訳なく思っていると。

 どうか一日も早く元気になって欲しい。立ち直って欲しい。

 あたしの事がとても気掛かりだ。

 彼とふたりで、いつもあたしの事ばかり話していると。

 あたしが立ち直る為なら、彼とふたりで何でもするつもりだ。

 だから元気になって欲しい。

 どうかお大事に。

 ……手紙を持つ手が震えた。

 怒りで頭は真っ白になり、目の前は真っ暗になった。

 ビリビリに便箋を引き裂き、床に叩きつけて踏みにじった。

 涙はとめどなく流れ、口からは奇声のような悲鳴を発して泣き叫び続け、髪を両手で抜けるほどに強く掻き毟った。

 憎い。憎い。憎い。

 よくも……よくもよくもよくも。

 よくもこんな手紙が書けたものだ!

 あんた達からの謝罪など、誰が受けるか!

 抗う事ができなかった? どうしようもできなかった?

 決して悪気はなかった? 申し訳なく思っているから、早く元気になれ?

 ……どのツラ下げて言えるのよ! あんた達、正気なの!?