銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 理解不能だ、まったく信じられない。ジンはそう何度も繰り返す。

「人間が、連綿と続いてきたこの世界のバランスを崩壊させたんだ」

 人間は神に代償を差し出し、摂理から身を守り、自然の恩恵を受ける。

 神は人間に慈悲を下し、自然の摂理に最低限干渉する。

 精霊は神に従い、人間に必要なだけの恩恵を与える。

 このバランスで成り立ってきたんだ。

 なのに突然、人間が欲を出した。

 代償は一切払いたくない。でも恩恵だけはたっぷり欲しい。

 そんな言い分が通用するか?

 このまま、このバランスのままで過ごしていけば、問題は起きなかった。

 全ては、人間の過分な我欲が生んだ悲劇なんだ。

「それは、我欲と呼べるものじゃないわ」

 あたしは震える声で反論した。

 大切な人を人身御供に差し出すのは、本当に辛いよ?

 そんな事、誰もしたくてしているわけじゃないよ。

 その犠牲による苦しみが永遠に続くのよ? そんなの嫌だ、もう御免だって思って当然でしょ?

「犠牲を払わずに済むなら、そうしたいって思うことがダメなの?」

「ああ。ダメな事なんだよ」

「どうしてそう言い切れるの!?」

「理由は簡単だ。その犠牲は絶対に必要だからだ」

「どうしてよ!? なにか別の方法が、解決策があるかもしれないでしょ!?」

 その方法を、みんなで話し合って探そうとは思わないの!?

 みんなが幸せになる、どの種族も犠牲にならない、救われる道を探そうって!

 そう願う事がどうしてダメなの!?

「無いんだよ。そんな道は存在しない」

 ジンは淡々と話し続ける。

 この話し方、どこかで……

 ……ああ。

 ヴァニスがあの夜、あたしを諭そうとしていた時の口調と、まったく同じなんだわ。