銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「知らないの? モネグロスでさえも? だって自分のお母さんの事でしょう?」

「気が遠くなるほどの昔の事ですから。雫は、自分がこの世に生まれた時の事を記憶していますか?」

「全然記憶に無いわ」

「同じです。自分が生まれた、つまり生んだ存在があったという事実は歴然ですが、詳細は闇の中です」

 そうか。神すらも、あまり詳しいことは分からない。

 なら人間であるヴァニスが手探り状態なのは当然だ。

 だったら、今のうちにヴァニスの決意を変えてしまわないと!

 始祖の神を消滅させる方法が見つかれば、ヴァニスは迷わず実行する。

 そうなる前に、消滅じゃなくてみんなが救われる方の道へ進まなきゃ!

「ジン! 急がないと!」

「ああ、放ってはおけないな。できるだけ早く、もう一度狂王を襲撃する」

「襲撃!?」

 な、なに言ってるのよ!? なに考えてるのよ!?

 襲ってどうするのよ! 目指す方向が違うでしょう!?

「前回の事を考えれば、負傷させる程度が精一杯だろうな、それでも怪我の程度によっては、足止めになるだろう。死んでくれればなお良いんだが」

「ジ……」

「狂王が死ねば、人間の拠り所の王家が滅びるからな。……あぁ、そういえば、王家にはまだひとり女がいたな。妹姫が」

「!?」

「その妹姫も放っておくわけにはいかないかもな」

 あたしは、頭にガツンと岩石をぶつけられたような気持ちだった。

 全身に冷たい何かが流れる。

 ジン、あなたまさかマティルダちゃんをどうにかするつもりなの!?