風の精霊は無表情で突っ立っている。
 なんだか、あたしの言葉をよく理解できていないみたい。

 実体化を解けないって、そんなに驚くようなことなの?

 ひょっとしたらこっちの世界じゃ、誰にでも簡単にできることなのかしら??

 あたしは試しに、ちょっと解いてみることにした。

 ……ふんっ!

 ……フンーーーッッ!!

 あぁ、やっぱりダメだわ。

「やっぱり無理みたい」
「嘘だろおぉ!? 人間って実体化も解けない生き物なのか!?」


 驚愕そのものの表情で、風の精霊が自分の髪を掻き毟りながら叫んだ。

「し、信じられない! そんなんでどうするんだよ一体!?」

「どうするもこうするも、解かなくても今まで生きていくのに支障は無かったもの。別に」

 っていうか、解けちゃった方が問題があると思うんだけど。

「お前、飛ばずにどうやって神殿まで行くんだよぉ!?」

「え? い、行けないの?」

「行けるわけがないだろう!?」

「知らないわよそんなの!」

「ああぁぁぁ、まったく本当に人間って生き物は!」

「愚痴ってないで、何か方法を考えてよ!」

 ここで、こんな性悪な精霊と一緒に乾物になるなんて嫌よ!
 なんとかして!

 呻きながら頭を抱えていた精霊が、ふと天上を見上げた。
 途端に、その銀の両目に希望の灯りがともる。

「そうか! よし、行ける!」
「ほんと!? どうやって!?」
「虹の滝を利用するんだ」
「虹の滝?」
「あれだ」

 風の精霊の指差す彼方の方角に、昼と夜の空を分断している虹の滝があった。

「お前の力で、あの滝を神殿までの架け橋にするんだ」