銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

 ……知らなかった。

 精霊達が、今まで人間達のためにずっと耐え続けてきたなんて。

 あたし、全然、知らなかったから……。

 そんな事情があって、そのうえで人間にこんな事されたら、そりゃあ腹にも据えかねるだろう。

 あたしは重苦しい気持ちで、再び『無知である』という言葉を、噛み締める。

 異世界から来たあたし。

 この世界の事情に、おそらく一番通じず疎い存在。

 そのあたしが、この世界の事情に首を突っ込んでいる。

 その事自体が無茶なのかもしれない。でも……。

 この旅はあたしの旅だ。

 この世界の問題は、もうすでにあたし自身の問題でもあるんだ。

 変わるために、変えるために、出来る限りのことをする。

 諦めるな! あの時の決意を思い出せ!

「でも、やっぱり人間だけが罪悪だとは言えないと思う」

「……」

「生き物が、より良い条件で生き抜くために努力する事を、間違いとは言い切れないと思うわ」

「努力、ね」

 ジンは形容し難い複雑な顔をした。

 内に熱い怒りを秘めたような、そのくせ、妙に冷たいような顔だった。

「確かに、より良い条件の為に努力する事は間違いじゃない。オレもその点は同意するよ」

「ほんと? だったら……」

「なら、オレ達が人間を排除しようとする事も、間違いじゃないよな?」