銀の精霊・森の狂王・時々、邪神

「事実? 真実?」

「あなた達にとっての事実が、人間側にとっての真実ではないの!」

「おいどうしたんだよ雫、しっかりしろ」

「だから、人間には人間のやむを得ない事情があったんだってば! それを理解して欲しいの! ううん、理解しなきゃならないのよ!」

「……雫、目を開いて良く見ろ」

 ジンはそう言って、モネグロスの肩を抱く。

 蒼白な顔で、生気も抜け落ち、希望すら無く涙を流し続けるだけの、哀れなモネグロスを。

「愛するものを奪われ、仲間を失い、住む場所も崩壊し、自分の存在すら危うい神の姿だ」

「……」

「人間の事情? こんな目に遭わせておいて、そんなものまで理解しろと? 事情があれば、何をしたって許されるのか?」

「そ、れは……」

「無残にも消滅させられてしまった神や、眷属達にも言えるのか? これには『事情』があるんだから、お前達も納得しろと」

「……」

「それほどまでに、優先されるべき物なのか? その『人間のやむを得ない事情』ってのは」

 あたしは唇を噛み締める。

 そう。これが神や精霊側の事情だ。

 事実は事実として、人間達はそれを認めて受け入れなくてはならない。

「ヴァニスも言っていたわ。弁解はしないって」

「当然だな。弁解できる範疇をすでに超越してる。この残虐行為は」

「でもそれは、ヴァニスが残虐な人間だからやった事じゃないのよ!」

「いい加減にしろ雫。なぜ狂王や人間達の肩をもつんだよ」

「肩をもってるわけじゃない!」

 あたしはだんだんイラついてきた。