そう言うあたしに、風の精霊は小馬鹿にした表情を見せた。

「ここをどこだと思ってる? 神の聖域だぞ?」

「だから、それは知ってるわよ」

「いいや、お前は分かっていない。聖域というものの偉大さをな。精霊や人間ふぜいが、神の聖域に許可なく入り込んで無事で済むと思うのか?」

「……」

「本来オレ達は、ここにいてはいけないんだ。禁を犯している以上、それ相応の危険は常に及んでいる」

 ……確かに、あたしの元居た世界でも、そういう場所はたくさんあった。

 入ってはいけない空間とか、開けてはならない扉とか。
 決して触れてはならないご神体とか、聖遺物とか。

 あっちですら、その類はものすごく神聖に扱われているんだから、実際に神のいるこちらでは、重要さはその比じゃないだろう。

 じゃあ、なに? あたしって『ここから先、絶対禁止』区域に、許可なく土足で入り込んでるわけ?

 今まさに、ど真ん中?

 ……それってひょっとして、ひどくヤバい状況なんじゃないかしら?

「やっと事の重大さが理解できたようだな、半人間。だから砂漠の神に謁見し、この地に立つ了承を得るのが最優先なんだ」

「ねぇ、つまりあなた達は、了承も得ずにここへ来たの?」

「ああ、そうだ」

「そんな、命に危険が及ぶほど大事な手順すらも吹っ飛ばして?」

「だから言ったろう。事情が複雑だと」

 難しそうな顔で、風の精霊がそう言った。
 その固い表情から、あたしはようやく事態を飲みこみ始める。

 いや、細かい事は、いまだにサッパリ分からないけど。
 とにかく彼らは、自分達の命の危機を顧みる余裕もないほど、切羽詰った事情を抱えてるって事?